ヤマハ藤田 シーサイドクラブ
ボート遊びにはさまざまな愉しみ方がある。日本では釣りがメジャーな遊び方だが、最近はクルーズ派という人もかなり増えてきた。大海原でのクルーズは爽快だが、コンディションやボートのサイズによっては手軽さからはほど遠い。小さなボートでも比較的愉しみやすいリバークルーズはおすすめだ。
勝鬨橋に舳先を向けて隅田川を行く。
プレジャーボートの遊びというと潮の香り、どうしても大海原での遊びをイメージしてしまいがちだ。しかし海の場合、コンディションを考えると年中楽しめるわけではなく、むしろ苦行になってしまうこともある。実際、ボート大国と言われる欧米各国の様子を見ても河川を含む内水面の交通網が発達していることが多い。そして大切な交通手段でもあるし、人気のレジャーにもなっている。
最も有名な例で言えばオランダだろう。国土のそのほとんどを水路・運河や河川が縦横にめぐっておりボートを使ってあらゆる地域へ移動可能だ。特にアムステルダムのきめ細かな水路・運河は有名な観光スポットでもある。またオランダのみならずヨーロッパは河川を通じてほとんどの国が繋がっている。たとえばアムステルダムからボートで、南の地中海、遥か東ロシアのモスクワやサンクトペテルブルク、さらには黒海まで内水面を通じて抜けていくことも可能だ。オランダに限らずフランスやイタリアも同様だ。フランスは内陸水運が盛んでボートを使っていろいろな場所をめぐることができる。島国イギリスも産業革命時代に石炭を運んだ歴史もあって内陸の運河が発達している。特に細長い特徴的な形をしたナローボートでのリバークルーズなどが知られている。これはヨーロッパだけでなく北米も同様だ。アメリカのほぼ真ん中を縦断するミシシッピー川のクルーズは有名だし、東海岸には「ICW(Intracoastal Waterway)=沿岸内水路」と呼ばれる全長約4,800kmにも及ぶ水路がある。海峡や湾などを河川や運河でつなぎ、ほぼ外洋に出ずに内水面を航行できるためレジャーでの利用も多い。特に高低差のある水路と水路を通り抜ける場合、ロックゲート(閘門)やインクライン(傾斜鉄道)を利用する。これ自体、リバークルーズを楽しむための一つのエンターテインメントになっている。
オランダ・アムステルダムは水路と運河が縫うように走る。観光クルーズだけでなくプレジャーボートも数多い。
イタリア半島の根元、ベネチアは水の街だけあって運河や水路が縦横に通じている。写真はカナル・グランデ。
世界遺産にも登録されているイギリス・ウェールズ地方のポントカサステ水路橋を行くナローボート。
ロシア・サンクトペテルブルクの開閉橋。
日本の場合はどうだろうか? たとえば明治時代までは東京(江戸)を中心に関東地方はかなり舟運の発達した地域だった。江戸には日本全国から多様な物資がもたらされたが、それらの多くは舟運に頼っていたからだ。たとえば東北・太平洋岸と江戸を結ぶルートは、房総半島をまわる海路と、銚子から利根川に入り、関宿(せきやど/野田市)を経て江戸川を下るルートがあった。後者の内陸ルートは明治時代になってから利根運河(1890年)が開削されて所要時間が短縮。内陸ルートに汽船が就航し銚子・東京間を約18時間で結んでいた。しかし1897年には後の総武本線が銚子まで開通し所要時間も一気に短縮された。ただ当時は東京側のターミナル駅が両国橋だったため、貨物は両国橋から隅田川の舟運に頼って東京市内へと運ばれていた。とは言え、舟運は鉄道に敵わない。やがて関東地方の舟運はすたれてしまった。
東京・江戸にはそういった歴史背景もあって実はリバークルーズにぴったりのスポットがそろっている。隅田川・お台場周辺・京浜運河・日本橋川・小名木川・東京スカイツリー周辺・荒川などなど。これからのシーズンであれば桜のお花見がてらのリバークルーズは最高の楽しみだ。水路をトンネルのように囲む桜の中をゆっくりとボートで走るのは日常では味わえない悦びでもある。
今後「リバークルーズの愉しみ」では東京エリアのリバークルーズスポットを中心にご紹介していきたいと思う。
隅田川と荒川がぶつかる岩淵水門
桜のシーズンには隅田川も絶好のリバークルーズスポット。
大岡川の桜並木。横浜にもリバークルーズにぴったりのコースはいっぱい。